とある晴れた日の空。
俺は夕日に染まる冬の大空を、急斜面の坂から見つめていた。
「見ぃーけたっ」
「わっ!」
気づけば俺の上に、見覚えのある幼馴染の顔が。
塾の帰り道に、偶然俺を見つけたらしい。
俺と同じ学生服を着て、塾用のリュックを背中に背負っている。
頭にはなぜか、フリルのついた小さなピンクリボンが乗っかっている。
……相変わらずの趣味の悪さだ。

こいつの名前は、青山理佳。
ずっと俺にまとわり付いてくる、腐れ縁の幼馴染。
性格はキライじゃないけど、こいつ……世界でも珍しいおばかさんだ。
そのレベルは、「世界一」と言っても過言ではない。
……そのくせ変なとこ、ずる賢い。
こういうのを「ほんとうの天才」というのかもしれないけど。
(そんなの、知るかよ…っ)
なんだかこいつのことを考えると、急にムカついてきたから不意に頭を掻いた。
「ねぇ、錦」
「なに」
理佳は俺のことを錦、と呼ぶ。
理佳以外のやつらは俺のことを、川口と呼ぶ。理佳だけは俺のことを下の名前で呼ぶ。
まぁ、呼び方なんてなんでもいいけど。
理佳が恥ずかしそうに顔を掻いた。
「…ぁぁ……、なんでもない」
なんだ、それ。
俺を呼んでおいて、なんだよ。
「あのさ、錦……」
今度こそ答えろよ。答えなきゃ、叩くぞ。
俺は拳を小さく構えながら、答えを促した。
「なんだ」
「その……」
「なんだよ」
理佳の顔がどんどん赤くなっていることに気づいた。
「どうした、顔、赤いぞ」
「え………、嘘…」
俺が理佳の熱った頬に触れると、冷たい木枯らしが吹きむき出しになっていた肌に当たった。
冷たい、というより痛い。この木枯らしの冷たさは、頭を痛くさせるほど強かった。
たぶん理佳は、この冬の寒さにやられたんだろう。
「理佳、おまえ熱、あるんだろ?」
「…わかんない」
「あぁ、もう!はやく帰るぞ!」
理佳がぐらっ、とふらついて倒れそうになった。
俺はその身体を慌てて抱きしめた。すごく、すごく、暖かった。
戸惑う理佳に俺は
「おい、しっかりしろって」
「ごごご、ごめんっ」
(大丈夫か、こいつ)
不安になってきた俺は、自分よりひと回り小さな理佳を背負って、急いで家までの距離を走った。