昨日の魔物かとも思ったが、もしヤツらならば馬の蹄のような音がするはずだ。これは明らかに二本足の生き物である。

草や落ち葉を踏みしめる音が、すぐ近くで聞こえてきた。木に登り、隠れている時間はなさそうだった。

(これは…最低でも2匹は確実にいるわね)

耳を澄ませてその足音を聞いてみると、どうやら複数のもののようだ。

(取り敢えず、逃げなくちゃ)

ここからでは、木の向こうにある高い茂みが邪魔していて、相手の姿を確認することができない。それに今動いたら、私の存在を気付かれる恐れもある。

この場合は気付かれる前に行動を起こし、不意を突いて逃げるのが一番良い方法だ。

私はそう判断して着ているローブを素早くめくると、腰に差している短剣を抜いた。

剣術はあまり得意なほうではなかったし気休め程度にしかならないが、精霊術士としては護身用として一般的に持ち歩いているものである。

私は敵が近くに来たら即座に剣を振り回し、相手が一瞬でも怯んだ隙に、猛ダッシュで逃走するつもりだった。

茂みはガサガサと徐々に大きく音を立てながら揺れていた。敵はそれを掻き分け、こちらへ来ようとしている。

私はタイミングをはかりながら短剣を両手で強く握り締めると、木の陰でゴクリと唾を飲み込んだ。緊張からか、一筋の汗が額を流れる。