いつになく神妙な顔つきで首を左右に、静かに振りながら言ってきた。

「どういうこと?」

私は訝しんで訊き返した。先程まで「逃げるのは醜態だ」とか「同じ過ちを〜」とか、ほざいていたはずだが。

「無抵抗なモノを倒すなどという卑劣な行為、断じて俺にはできん。
弱きを助け、強きを挫く!
そんな俺の信条に反するのだ。例えそれが敵である、魔物だったとしてもな!」

また胸を張り、当然の如くキッパリと言い切った。

ああそうですかい。

あんた独自の信条とやらは、一体いくつあるっていうのよっ!!!

私は叫びそうになっていたが、そんなことをしてもこの男には効果がなさそうだったので止めた。なるべく無駄な体力を消耗したくはないのだ。

「では先へ行くぞ」

「はぁ……」

やり場のない怒りを深い溜息とともに無理矢理吐き出しつつ、促されるままに移動する。

本当ならこのまま奥へは行きたくなかったのだが、アレックスのことである。彼自身が納得しない限り、魔王のことは諦めてくれそうにない。

「あれ、そういえばエドは?」

エドの姿が見えないことに気が付いた私は、辺りを見回した。

「エドは既に奥へと走っていったぞ」