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 込み入った道筋。


 来なれたこの場所の前に立ち、俺はその建物を見上げた。


 車はこの近くにあるコインパーキングに停めた。


 ここに来る時は、いつも酒を飲むことが前提だったから、こんな風に車で来るなんてことは初めてだった。





 地下へと続く階段をゆっくりと歩いていく。


 細い階段は螺旋型に廻っており、降りていくほどに外の光を遮っていく。





 降りていった先に洒落たプレートが右側の壁にかかっていて、そこにはその店の名前を示す『ZECS』という名が書かれていた。


 ガラス張のドアの向こうからは明かりは見えず、真っ暗だった。


 本当に、ここに居るのか?


 そんな気持ちが過(よ)ぎるが、今は指示に従うしかない。


 あいつに言われたこの場所以外に、静香たちがどこに居るかなんてわかるはずもないんだから。





 俺は、ドアノブに手をかけ開いた。





 一歩足を踏み入れ、中へとどんどんと入っていく。


 いつも見慣れた場所。


 いつもは喧騒に包まれているその場所が、今日はシーンとしている。


 そして、奥からうっすらと伸びる灯りに、茅乃がそこに居ると思った俺はその灯りに向けて足を向けた。