顔を上げたところで、俺は少し離れた場所に佇む、静香を目に留めた。
ここまで来ると、もう笑うしかない。
わざわざコウをこんな人があまり来ないようなところに呼び出した。
だから、『偶然』なんて言葉は通用しない。
静香は確実に俺たちの後を付けてきた。
ここまでくると、ただの執着心なんてものじゃない。
コウが静香を警戒するように言った意味もわかるというものだ。
「ハァ……」
一つ溜息を吐いた後、俺は静香が立っているほうへと歩いていく。
「―――圭史…」
近づくと、心細そうに俺の名前を呼ぶ静香。
そんな静香に俺は冷たい視線を投げかけた。
「こんなところまで付いてきて何?」
ビクッと体を震わせた後、静香は視線を彷徨わせる。
「あ、あの、偶然だったの。
えっと…、偶然圭史を見かけて、あたし―――…」
偶然?
そんなわけがあるか。
後をつける気がなければ、俺に声をかけるタイミングなんてあったはずだ。
それなのに、声をかけなかったところからして、後をつけてきていたのは間違いない。


