別に拓斗が悪いというわけではないけど、なぜか憎らしく思えてしまう。


 そんな気持ちが拓斗を見る目に表れていたのかもしれない。


 拓斗は「なんだよ」とあたしのことを見てきた。


「べ~つに…。ただ、拓斗はいいな~と思って」


「何が?」


「な~にも悩みがなさそうで」


「お前、その言葉は俺に対してかなり失礼だぞ。
それじゃ、まるで俺には一つも悩みがないみたいじゃないか」


「だって、その通りでしょ?」





 拓斗に悩みなんてものがあるなんて思えないんだもん。


 この学校を受験する時だって、あたしは必死に勉強したというのに拓斗は受験勉強など全くせずに遊びまくっていた。


 そのくせ、すんなりと受かっちゃうんだもん。


 拓斗って昔からそう。


 特別何かをがんばることも、何かに対して悩んだり困っているということも見たことがない。


 なんでも上手くこなす拓斗はあたしから見れば、ゆる~く生きているように見える。


 赤点ぎりぎりでも、全く落ち込んでないしね。


 その神経の図太さは尊敬しちゃうけど………


「失礼だな。
俺にだって、悩みの一つや二つぐらいは………」





 ブスッとしながら、拓斗は腕を組んで遠くを見つめる。


 そんな拓斗を呆然と見ながら、あたしはそういえばと思い出す。