「よ、よう」


黒澤は俺を見て怪訝に思ったのか、少しだけ目を細めた。


「何してるの?こんなところで」


「……教室だと電波が悪くて。はは」


俺は無理に笑顔を作り、ラジオを黒澤に見せた。


「あぁ、なるほど。でも、今どきラジオなんて珍しいね」


黒澤はゆったりと喋りながら、俺のラジオを眺めている。


「じゃあ私、これ運ば……


──っ!きゃっ」



一瞬のことだった。


階段へ向かった黒澤は、何も無いところでつまづいたのだ。


ガッシャーン


階段の下からガラスの割れる音が聞こえる。


「……」


「……」


俺は階段から落ちかけようとしていた黒澤を、腕を伸ばして捕らえた。


そのまま後ろにしりもちをつく。


腕の中には、黒澤。


彼女の黒髪から、微かにシャンプーの匂いがする。


「……あっ、ご、ごめん!」


黒澤は慌てて立ち上がり、俺の腕からスルリと抜けた。


「あ、ありがと、持田君」


「いや、別に」


黒澤はペコリと頭を下げてから、階段の下の踊り場を見下ろしていた。


「あー……やっちゃった……」


たんたんと階段を降りる黒澤に、俺も後ろからついていく。


「どうしよ……これ」


いや、俺に聞かれても。


ガラスの破片と黒澤を交互に見下ろしながら、そんなことを思った。