昼休み。


迷いに迷った俺は昼飯のサンドイッチを片手に、教室から出ていった黒澤を尾行することにした。


さすがにガラスが足に刺さるとなると、見捨てることはできなかった。


黒澤は一歩一歩、美術室のある三階へと向かっている。


暗闇よりも深い黒の髪を揺らしながら、一歩一歩、確実に。


──!?


黒澤が急に止まった。


……尾行してることが、ばれたのかもしれない。


しかし黒澤は、自分の制服のスカートやジャケットを手で抑えはじめた。


何かを探しているように見える。

「……あれ?」


黒澤がポケットに手を突っ込みながら、小さな驚きの声を上げた。


俺は、昨日の夜に聞いた予報を思い出す。




『12月7日12時29分2秒。

黒澤遥さんのニュースをお知らせします。

美術室へと向かう途中ふいに携帯電話の存在を思い出し、無くしたことに気づいたもようです。


ある生徒の目撃証言によると

黒澤さんの携帯電話は、靴箱の隅に落ちているのが発見されたようです。


……ザザ……ザ……』



改めて目の前にいる黒澤に目をやる。


この1ヶ月間俺は、ほぼ毎日、黒澤の予報を聞いてきた。


こいつは1日1回以上、必ずドジをしている。


しかも。


俺の尾行にも、全く気づいていないのだ。


……馬鹿すぎるだろ。


深いため息をついた黒澤は、諦めたようにまた階段を上りはじめた。