私は食事に手を付けずに若女将を待った。

『失礼します』

懐かしい声が静かな部屋に響く。

私に気付かずお辞儀をして襖を閉め再びこちらを向き丁寧に頭を下げた。

『…女将さん…』

一瞬、ビクッとした若女将はゆっくりと顔を上げた。

『聡子…、聡子じゃないか…あんた何やってたんだい?』

そう言って私の側へ来て手を握った。

なんて温かい手なんだろう…。

私の涙が若女将の手にゆっくりと落ちていった。