「……もう?」
それでもあたしはその表現が気になり
そう声をかけた。
「いや、気にしないで。
…いない、うん、いないよ?
彼女は、歌とピアノ」
ぎこちなく笑う零。
あたしももう何も聞かなかった。
急にテンションが下がる…
話してはくれないんだね。
話したくないんだね…
だからいつも
そんな哀しい目なの?
よっぽど好きだったんだ…
あたしは見たことも聞いたこともない
どんな女性なのかもわからないその人に嫉妬していた。
「…三年以上前になるかな」
零がポツリと言った。
「うん…」
「突然、いなくなったんだ」
「……亡くなったの?」
「いや、姿を消した」
「喧嘩でもしたの?」
気になってついあたしは聞いてしまう。
「ん〜まぁ…色々あってね…親父とも……
あ、いや何でもないや!
ごめんね」
それっきり零は口をつぐんでしまった。


