2週間程経った頃――


雑誌の棚の向こうに

黒の君が立ち読みをしている姿を見つけた。



「アッ!」とあたしは小さく声を漏らした。


すぐにでもレジを放り出して

黒の君の側に行きたい!



あたしの胸は高鳴った。


(どうしよう…)

あたしの目は、一直線に

黒の君へと注がれていた。




「すみません!」


その声にハッとすると

中年のおじさんが、文庫本を2冊レジの台に置いて

財布を取り出しているところだった。



「あ、すみません。いらっしゃいませ」


あたしはレジを打ち、お金を受け取った後

その文庫本にカバーを掛けて渡した。



「ありがとうございました〜!」


そう言ってから、視線を雑誌の棚の方へ戻すと


そこにはもう、黒の君の姿はなかった。



あたしは慌てて店内を見回してみたけれど

どこにも見当たらなかった。




ホームの方から発車を知らせるアナウンスが聞こえている。


(今の電車に乗ってっちゃったんだ…)




あたしは急に力が抜け


泣きたい気持ちで一杯になった。