ガランとした車内に入れ代わりに人が乗り込むと

電車は進行方向を変え

元来た線路を滑るように発車して行った。



あたしはしばらくベンチで休んだ。


そして携帯を取り出すと

絵里に電話する。



地下鉄にもう乗っているのか、電波が届かない…



諦めて、今度は明日香にかける。


(繋がった!)



あたしは事の次第を話し


「それでさー、弥生から代返頼まれてたから、代わりにお願い!

あたしは30分くらい遅れるって、飯田先生には伝えといて」



そう言って電話を切った。





さっき黒の君から

声を掛けられたことに

あたしは異常に興奮していた。





いつも哀しそうな目で

じっと外の景色を見ている。



見ているのか、それとも

そんなものは視界には入ってなくて

景色の向こう側の

闇の世界でも見ているのか……



時々目を細めて、鋭い目付きで遠くを見ていることもあった。



近寄りがたく、冷たい感じを受けていた彼が


他人に関心を持ち

あんな風に声かけるなんて……





とても意外だった。