途中であたし達が立っている隣の席が一つだけ開いた。


零がすかさず、あたしに座るよう促した。


でもあたしは、少しでも零の近くにいたかったから

座りたくなかった。



電車が揺れると、触れてしまいそうなのを

必死に足でふんばり、硝子窓に手を当てて押さえる。

結構きつかったけど、それでも零の隣に立っていたかった。



「病み上がりなんだから、座りなよ」

零に肩を押されて

あたしはしかたなく座った。


鞄を抱えるようにして座り、向かい側に座る人の足元を見つめる。



もどかしくて

じれったくて…


でも零の顔を見上げることもできなくて……。


勿論、話しかけることもできなかったし、零も黙って立っていた。



こんなに近くにいるのに

とても遠くに感じる。



(降りたくないなぁ…駅につかなきゃいいのに)


その時、あたしの鞄からこもった音で携帯のメロディーが流れた。