あたし、まだ零のこと
あんまり知らないよね…
決まった時間に電車に乗るわけじゃないし
苗字も、バイト先も
バンドの名前も聞いてなかったっけ…
兄弟がいるかとか
彼女がいるのかとか…
知ってるのは……
名前と、年齢と、降りる駅…
それから、セブンスターを吸ってることと――
ちょっとしかないや…。
上手いタイミングで電車に乗れた。
6時台後半とあって
いくら始発駅でも、既に座席はいっぱいで
あたしは奥の窓際に立っていた。
「間もなく48分発○○行き、発車します。
乗客の皆様、扉閉まります。ご注意下さい」
アナウンスの声がしたかと思うと
勢いよく乗り込んでくる足音に、あたしは振り返った。
(――――あっ!)
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