ひと駅ごとになだれるように、人が乗り込んでくる。

それでも黒の君は

なんとか入口付近を確保しているのだが

今日に限っては、人の波に逆らえず

奥へ奥へと追いやられて

一人間を挟んだあたしの近くまで寄せられてきていた。



こんなに近くで見るのは初めてで

白い肌に髭を剃った後が

うっすらとそこだけ色を変えていた。



そんな《男》の部分を見つけると

あたしの胸はキュンと僅かに動揺した。





それからしばらく満員の電車に揺られて

あと一駅過ぎたら終点という頃

あたしの腹部に仙痛が走った。



痛みは激しさを増し、あたしは冷や汗をかきはじめた。


次第に吐き気までもよおしてくる。





(……ッ…たぁ〜!)


(朝1番に猛ダッシュしたのがいけなかったんだ…)



あたしの顔は痛みに歪み、青ざめていることも

自分で感じていた。



すぐ隣の中年のサラリーマンが

あたしの異変に気付いて声を掛けて来た。



「苦しそうだけど…どこか具合悪いの?」


「はい……あの、お腹痛くて気持ち悪いんです」


「大丈夫?」


「後ちょっとで着くから大丈夫です」