「あ、こんばんは」
目を合わせられない。
「今帰り?遅いね、今日は」
「あは、はい…」
「バイトなかったの?」
「ん?えっと…いや」
しどろもどろになりながら、零の少し後ろを歩く。
「17分かぁ…」
時刻表を確認すると、零は近くのベンチに座った。
あたしも隣に座る。
「仕事の帰りですか?」
「いや、連れのバンドのライブ行ってた」
「へぇ〜!」
「で?京奈ちゃんは?どっか遊びに行ってたの?」
あたしは手に持っていた紙袋の持ち手を、ギュッと握った。
「んっと…これ、渡そうと思って…」
紙袋を零の前へそぅっと出す。
「ん?俺に?」
あたしはコクンと頷くと
「あの…昨日バレンタインデーだったから。一日遅れたけど、作ったんでよかったら」
零はいつものように鼻先で軽く笑っていた。
そして
「いいの?ありがと」
と言って紙袋に手を伸ばした瞬間、軽く指先が触れた。
「――ッ、京奈ちゃん?!」
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