「今もね…時々触るよ…

……ソナタか…懐かしいな」


あたしが抱えている楽譜を見てポツリと言った。



「あはっ!あたし5年生でやめちゃって…

保育科入ってまた仕方なく。

だからあんまり上手じゃないんです。

指短いし…ハハ…」



やたらテンション上げてるあたしとは逆に

何となく淋しそうな顔。



(気まず〜っ!)


うろたえるあたしに


「なんて名前?」

と黒の君は微笑みかけた。



「京奈です!

京都の京と奈良の奈…だから小学校の修学旅行の時笑われました。

あたし、ハネムーンベビーだったらしくて。

両親が京都と奈良に行ったらしくて……

だからってこんな名前…」


聞かれてもないのに

ついペラペラ喋ってしまってから

すぐ後悔が押し寄せる。



顔がみるみる間に赤くなっていくのが、自分でもわかった。