ところが、ある日偶然にも

あたしが地下鉄の階段を上がったところで

黒の君とバッタリ出くわした。



びっくりして思わず

「うわぁ!」

と大声を上げるあたしを見て

黒の君も驚いた顔をしている。



「こ、こんにちは!」

慌てて声を掛けると

「やぁ…」

と黒の君は眩しそうに笑った。


「今帰りですか?」


あたしは話すことが思い浮かばなくて

それでも何か話したくて

こんな冴えない質問をしてしまった。



「あぁ…」


何となくスッキリしない返事。


(あたしってば何つまんないこと言ってんだ…)


少しだけ自己嫌悪に陥り、俯いていると



「あれ〜?音大でも行ってるの?」

と突然黒の君が声を弾ませた。



「あ、これ…」

あたしは持っていたピアノの楽譜をチラリと見てから

「違うんです。
保育科に行ってるんです。ピアノは必須科目だから…」

と答えた。


「なるほどね…

僕も中学までやってたんだ」


「えぇッ?!」