最初に心配して声を掛けてくれたサラリーマンの顔は
不覚にも全く覚えていなかった。
痛みを堪えるのが必死だったのと
興味がなかったせいもある。
本来ならそのサラリーマンを見かけた時こそ
一言礼を言わなければならないのに……
黒の君のことばかり気にしているあたしは
なんて人でなしなんだ……!
そんなことを思いながらも
ずっと気になる存在だった黒の君と、話すキッカケができたことにあたしは浮かれていた。
電車はやっと終点に着いた。
あたしは黒の君がドアが開いてすぐ降りて行く姿を、見失わないよう目で追った。
なかなか降りれないあたしはもどかしさに苛々する。
皆、我先にと急いで降りようとするから尚更だ。
ようやくホームに降りると、あたしは黒の君を探した。
(うっそ!見逃した!?)
人を掻き分けるように、早足で前を急ぐ……
改札を出て階段を下りる所で
やっとバスターミナルの方へと向かう姿をみつけることができた。


