「どうして?」
泣き崩れる私を抱きしめてくれる春牙。
「泣いている暇はない。ここも危ない。」
春牙は馬に跨り私に手を差し伸べてくれる。
手を取ろうとした瞬間春牙に矢が飛んできた。
彼の頬をかすった矢は近くの木に刺さった。
「誰だ!!朱里、早く乗れ!!」
声を荒げる春牙、私は春牙の手を取って馬の上にいる彼の胸に縋るように顔を埋めた。
走り出す馬。
聞こえてくるたくさんの男たちの声。
追いかけてくる馬の蹄の音。
混乱したまま私が連れてこられたのは里から少し離れた私と春牙の秘密の場所だった。
小さい頃からずっと一緒だった春牙と見つけた小さな洞窟。
そこに身を隠すようにして二人で寄り添って座った。
「いったい何があったの?」
「里は襲われた、冬牙が裏切ったんだ。」
「どういうこと?」
「冬牙はずっと狙っていたんだ、お前と里を...。」
「私と里?」
「そうだ。お前を娶り里の後を継ぐのは自分だと言って....。」
信じられない言葉だった。
父を尊敬し母を敬ってきた冬牙。
里に捨てられていた冬牙を拾い、育てたのは母だった。
その冬牙が....
父を、母を手にかけるなんて...
「嘘...」


