紫衣を怖いと感じたのはその時だけだった。


次の日もその次の日も私の知る紫衣だった。



退院してからも自宅で療養を続ける紫衣。


卒業式の3日前、やっと学校に来ることが出来た。


心配掛けたおじさんとおばさんに卒業式に出る自分の姿を見せてやりたいと私の反対は聞き入れてはくれなかった。



石田とは連絡をとっているのだろうか…。


退院するとき担当医から石田は少し距離をおくように指示されていた。


その医師の言葉に石田の肩は震えていたんだ。


石田も傷ついている。


ずっと石田を責めてきた、だけど…


今は石田の苦しみをわかってあげたいと思うんだ。





「明日から、卒業まで4日しかないけど…
紫衣、学校に来るよ。」

言わなくてもいいことなのに、私は石田にだけコッソリと話をした。


石田の横にはいつも真衣がいる。


真衣が離れた隙を狙って話したんだ。



「知ってる…。
紫衣とはメールはしてるんだ。」


「そう。」


「俺達もうダメなんだろうな…。」


「なぜ?」


「紫衣はもう紫衣じゃないんだ。
俺だけを見てくれていた紫衣はいない。」


自業自得だけどなって笑う石田は苦しそうだった。


紫衣が好きなんだね…。


やっぱり石田を責めることが出来なくなった。



強引に紫衣の手を掴めないのは石田の一瞬の気の迷いからつけた紫衣の傷への負い目。



誰もが羨む仲だったのに呆気なく壊れてしまった。



私に出来ることは、もうなにもないの?