悲しそうに伏せられた睫毛を濡らす紫衣。


何も言えずにただジッと紫衣を見つめていた。


「私が縛りつけていたんだよ。良君をもう自由にしてあげなきゃいけないね。」



「記憶戻ったの?」



紫衣の言葉に戸惑いながらも私は聞いたんだ、記憶のこと。


だけど紫衣は微笑むだけで更に私を困惑するような言葉を零した。



「記憶とかじゃない。
心がそう言ってるんだよ。」



紫衣も望んでいることだからって続く言葉は私を益々混乱させた。



まるで自分は紫衣じゃないというような言葉。



「ねぇ、芽衣ちゃん。
佐和山に行こうね。
三成が見た風景を私も見たいよ。
彼が愛した街や人を感じたいんだ。」



遠い場所を懐かしむように見ている紫衣。


その瞳に今は映っていない?


いったい紫衣は何を見ているの?




怖かった。


とても怖かったんだ。