悪阻が酷くて何も口に出来ない日々。


唯一、果物だけを口に運ぶ日々を過ごしていた。

「何か他に食べたい物はありませんか?」


朱里さんは困ったように眉を下げ、食事の度に口癖のように私に尋ねる。

「ごめんなさい。」


本当に気分が悪くて何も食べたくない。


お腹の赤ちゃんの為にシッカリ食べなきゃって思うけど、匂いを嗅ぐだけで何も入っていないはずの空っぽの胃から込み上げる物があるんだ。


「謝らないで下さい。
凌庵さんも無理に食べなくてもいいと仰ってました。」


今は食べれる物を食べたいだけでいいんですよって優しく話してくれる。

妊娠って大変なんだね。

悪阻を経験し、自分の事なのに他人事のように考える私。


自分が妊娠しているなんて実感が持てなくて、ペッタンコのお腹をさすった。


「みんな、こんなに大変な思いをしてきたんだね」


やっぱり他人事のように呟く私に朱理さんは、


「症状は人それぞれと聞きますよ。」


やんわりと応えてくれる。


「確かに、ゆきさんはとても元気だったものね。私はとても軟弱なのかしら…。」


「ゆきさんも悪阻はひどかったですよ。
だから紫衣もこれがずっと続く訳じゃないと信じて下さいね。」