ドアに掛けていた手に力を入れて開くと目の前には紫衣。
やっぱり泣いていた。
きっとみんなに背を向けるまでは我慢していたんだろう。
頬を涙が伝ったまま紫衣は俺の姿を瞳に映して立ち尽くしていた。
俺の目の前で瞳から涙を溢れさせる紫衣。
紫衣の後ろには俺を睨みつける芽衣と結衣。
芽衣は紫衣の為に俺にキツイ視線を送り、結衣は真衣のため。
でも、そんなこともうどうでもいい。
そんな風に思う俺は非情なのだろうか。
目の前の紫衣だけしか俺の瞳に映したくないと思う俺は悪い男だろうか。
「ごめん…な…さい…」
俺とドアの隙間をすり抜けるようにして紫衣は出て行った。
俺の差し出した腕もすり抜けて廊下を走っていった。
動けなかったんだ。
俺の手を取らなかったことなんてなかったから、俺は瞬時に紫衣をとめる事ができなかったんだ。
「紫衣--!!」