卒業を一ヶ月に控えた日。
「今日はみんなで旅行の話しをするから一緒に帰れないの。」
「そっか、じゃあ今日は先に帰るな。」
紫衣の頭をひと撫でして俺は教室を出た。
結局俺は何も変えられなかったんだ。
真衣との電話を続け、紫衣とも変わらず付き合っていた。
それでも真衣の言葉を思い出しては胸が痛んだ。
紫衣の笑顔に曇りが見えることにも胸が痛んだ。
足早に教室から廊下に移動して昇降口に向った。
何も出来ないことへの苛立ちと逃げてばかりの情けなさに追い立てられるようにして歩いた。
昇降口についた俺を呼び止めたのは同じクラスの吉井だった。
吉井は俺に近付くと耳元で小さく囁くように言葉を落とした。
「なんかあの4人喧嘩してたぞ-。もてる男はつらいって?」
嫌味なその口調に苛立ちを感じながらも俺は教室に戻るために踵を返したんだ。


