紫衣の瞳に映し出される池と三成の声から逃げるように俺は彼女を連れて家を出た。
自分の欲望との戦いの最中おきた不思議な現象と三成に見られていたのかという恥ずかしさから、ただ彼女の手を引いて家から出たんだ。
エレベーターに向かって歩く廊下。
彼女の手を取って、ただ黙って歩いた。
小さな彼女の手は震えていた。
俺の急な行動に戸惑っているのだろうか...。
不安にさせてしまったのかもしれない。
エレベーターが来ると彼女を押し込むようにして中に入れて彼女の唇に俺の唇を重ねた。
ゆらゆらと揺れる彼女の瞳が不安な色に染まっていたんだ。
彼女を安心させてやりたい。
そう思っても自身を襲う不安に俺も瞑れてしまいそうだった。
三成に導かれたら紫衣は俺の側からいなくなってしまう。
三成を彼女は選ぶんじゃないだろうか...。
どうして俺を呼ぶんだ?
俺の半身、三成。
紫衣はお前のために生きている。
お前に逢わせたくはないよ...。
お前に逢わせるのが怖いんだ。
奪うように彼女にキスをした俺。
彼女を失いたくないと、手放したくないと思ったんだ。
たとえ三成でも彼女は渡せない。
だから、悪いな...。
三成、俺は池には行かない。


