迂闊だった。
紅葉の姿で紫衣のそばにいればこんなことにはならなかった。
膳を持ってゆき様に肩を押される紫衣を唖然として見ていた。
困り果てた様子で廊下の先を見てからゆっくりと足を進める紫衣。
紫衣の後ろ姿を見送る余裕などない。
俺は紅葉の姿になるために急いで自室に戻った。
紅葉になれば膳を紫衣から取り上げ、正澄様の部屋に紫衣が行くという最悪の事態は免れる。
今はただ急いで着替えるしかないんだ。
俺は飛ぶように自室に戻って着物を着替えた。
紅葉になるために急いで支度を整えたんだ。
だけど、遅かった。
間に合わなかったんだ。


