気を悪くされた様子はない。


だから俺は殿の気持ちに甘えることにした。



正澄様の屋敷に殿がいるのであれば一石二鳥だ。

正澄様との接触を避けている紫衣が殿と顔を合わすこともないだろう。


今日は安心していられそうだ。


それならば、俺のすることは決まった。


万が一に備えて紫衣という女の行動を見張っていればいい。


紅葉でも隆吉でもなく忍として、俺個人として女の動向を見守ることにした。



その安心が後々とんでもない事を引き起こすなんてその時の俺には思いもしなかったんだ。




油断していた。



紫衣には朱里がついているから大丈夫だと思っていたんだ。





まさか紫衣が正澄様に膳を運ぶ事になるなんて、その時は夢にも思わなかったんだ。