幸いにも奥方様は人前に出ることがなかった。
だから俺が奥方様と入れ替わり紅葉として過ごす事は容易だったんだ。
その事を左近様から聞かされたときは正直不愉快だった。
男として腕を磨き、殿のお側に仕えることだけを考えてきたのだ。
女の着物なんぞどうして着なければならない!
そう思って俺は苛立った。
でも左近様の考えを聞いて決意したんだ。
殿が心を許せる女が現れるまでの代役として俺が殿の側で奥方のふりをする事が殿にとっても一番だと言う左近様の考えの深さに胸を打たれた。
次こそは殿だけを見ることができる女が現れることを願っている左近様のお気持ちに心打たれたのだ。
「俺がその役を引き受けるのは少々無理があるのだ。」
ニヤリと笑って言った左近様。
確かに…
無理がありすぎる。
男の色気タップリな左近様の女姿…
想像するだけで…
「うッッ!」
「想像はしなくていい!」
左近様の強烈な手剣脳天直撃後、この話は成立した。


