次の日の朝、俺は早くに目が覚めた。
起きてすぐの頭の中に浮かんだのは殿の翳った表情だった。
良くそんな表情をするようになったのは奥方様のことがあってから、俺はそのことがきっかけで殿のお側に仕えるようになった。
まだ側近とはいっても若い俺が殿のすぐお側に仕えることができたのは左近様のひらめきによるものだった。
そのひらめきは俺にとってはかなりつらい仕事になったのだが、今は感謝している。
殿のお側で本当の殿に触れることができたのだから...。
殿の奥方様は殿を利用するために殿に嫁いできたような策略家だった。
ご自分の身分を、ご自分のご実家を一番に考えておられる人だった。
殿もそのことは承知の上で娶られた。
だから秀吉様のご側室になる奥方を責めることはなかった。
責めるとしたら自分だとおっしゃったんだ。
そしてその言葉通り殿は自分を責めていた。
自分の感情を見せることの苦手な殿は奥方様を追い詰めたと思ったのだろうか。
相手を責めることなく全てを自分で背負ってしまう殿の気質は時に必要以上に殿を苦しめている。
悲しそうな殿を見ると俺はいつも必要以上に殿のお側でうるさくハシャギまわり賑やかに過ごせるようにと努めた。
それしか殿をお慰めする方法を思いつかなかったんだ。
それでも殿が笑ってくれることが嬉しかった。
だから俺はいつも殿の前では明るく振舞うようにしているんだ。


