クナイを胸に抱いて布団から起き上がる。
着物を整えていると襖が開いて女の人が入ってきた。
「主人にあなたが目覚めたと聞いて、まだ起き上がらないで。」
優しい瞳、でも消えてしまいそうに儚い人。
あのギラギラとした男の妻なのか?
「いえ、長居は出来ません。ありがとうございました。」
「まだ寝ていなくてはいけないわ。私が父に叱られてしまいます。」
やんわりと肩を押して私を布団に寝かせると女は綺麗な紙の包みを私に差し出した。
「これを..着替える時に出てきたの。」
包みの中身は春牙から放れる時に持ってきた春牙の髪。
「何か事情がありそうね。ここでゆっくりと休んでいっていいのよ。」
春牙の髪。
春牙のぬくもりはもうない。
私を抱きしめてくれる腕も、あたたかい胸も...。
涙がポトポトと落ちて布団にしみを作っていく。
「とても大切な人でした。」
誰かに聞いて欲しかった。
「ずっと大切な人でした、これからも私にとっては変わらず大切な人なんです。」


