路地裏に人の気配はほとんどなく、大通りの方から時折聞こえる車のクラクションが青年の耳に心地よい喧噪として伝わってくる。

 建物の間を吹き抜ける風は青年の頬を優しく撫でつけ、無表情な口元に小さな笑みを浮かばせた。

 あちらこちらに点在して伸びる木々の葉を、そよぐ風がさわさわと鳴らし、どこか懐かしさを感じさせる街の情緒に目を細める。

 にわかに、幾つかのばたつくような足音が狭い路地裏に響き渡った。

 足音から推測するに、誰かが追われているようだ。音は左の路地から徐々に大きくなり、こちらに向かってきている。

 少なくとも四人以上の足音に、青年は眉を寄せた。

 青年が音のする方に足を向けた刹那(せつな)、十字路の右から人影が飛び出してきた。