呆然と立ち尽くし震えながらも、涙は出なかった。嗚咽(おえつ)すらも突いて出る事はなく、吐き出せない苦しみに胸ぐらを掴んだ。

 自分のために何故、人が死ななければならないのか。不条理な現実にただ奥歯を噛みしめた。

 そんな怒りと哀しみのなかにあっても、目の前に広がる自由に鼓動は高鳴った。

 長くは続かない自由だとしても。ほんの少しでもいい、この世界を直に見て肌で感じたい。

 (はや)る心を抑える事が出来ず、今がそのチャンスなんだと軍の到着を待たずに施設をあとにした。

 大勢が命を奪われ、自由を得たことにわだかまりが無い訳じゃない。同列に考えてはいけないのだと、何度も自分に言い聞かせた。

 お前は人類の理想であり象徴だと言ったブルーの言葉は、今でも心に残っている。

「彼らと引き替えにしたものではない」

 かすれたつぶやきは、瞬く星空に吸い込まれていった。