「他に。他には何かなかったか」

 顔を歪ませて記憶を絞り出す。

「──そういえば。データを消去する直前、女の声のようなものが聞こえた気がする」

 うん、そうだ。若い女の声だった。

 その声に聞き覚えは無かったかと必死に記憶をたどるも、そんな若い声の女なんて殺した人間の中にしかいない。

「いや、待てよ?」

 殺してはいないが、一人いたな。

 ベリルの後ろにいたあの女、どうせ闘うことも出来ない奴だと思って無視したが──考えられるのはそいつしかない。どんな声かも知らない女だ。

「ボスはあの女を求めていた。何か妙な力を持っていたとしても、不思議じゃない」

 セラネアも妙な存在感を放ち、弱小だった組織を手早く大きくした。おかしな力を使ったのだとすれば納得がいく。

あのとき、女をすぐに捕まえなかったのは、奴との交渉を進めるためだ。