「今のところ、それを知ってるのは俺だけだ。俺の下僕(げぼく)になると約束するなら、そのデータは綺麗さっぱり消してあげるよ」

 ベリルは動揺を抑え、差し出された手を無言で見つめる。当然、了解するだろうと思っているキリアは余裕の笑みで返答を待った。

「どうした? 俺がお前を認めたから、こんな交渉してやるんだ。でなきゃ殺してる」

 早くしろと言うように、喉の奥で舌打ちをして差し出した手を振る。

 だが、

「好きにするといい」

 言い放ち、キリアを見据えた。

「なんだって?」

 思ってもみなかった回答に顔を歪ませる。

「おまえ、馬鹿なのか」

「従うつもりはない」

 その瞳には、共に殺しを楽しむ事などあり得ないとあからさまに示されていた。