可愛らしい顔を歪めて、初めて威嚇された。
あんなに可愛かった飼い猫が、野生丸出しの野良猫に豹変した瞬間。
「ね、聞いてるわけ?」
あの時と同じような表情(かお)をする尚が、今目の前であたしの頭の後ろに手を回す。
たったこれだけのしぐさなのに。
きゅーっと胸が高鳴る。
ヤクザのおっさんにこれをやられたら、確実に真っ青になって親の泣き顔を浮かべるのに、尚がやるから頬が紅潮し、ドキドキも最高潮。
尚があたしのある一点に視線を集めるから、というのもドキドキする理由のひとつ。
「蜜希…」
まさかって。
まさかって思った。
尚があたしの唇に熱い視線を送るから、ドキッとして。
そして、尚が顔を傾け形のよい唇を近づけた。
「ん…っ」
尚の唇があと一センチというところで止まった。
目を開けると、そこには意地悪く微笑む尚。
「まだしてないのに…エッロ。」
まだ触れていないのに、声を漏らしたことを思い出し、頬がカアッと熱くなった。
「…してほしい?」
意地悪く問いかけられる。
ちゅっとほっぺたにキスをする尚。
「…言うまであげないよ。」
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