彼氏キケン地帯





「そう。俺らって、中学一緒だったんだよな。」


目の前にいる斉藤の声がぼんやりとしか聞こえない。


あたしの頭の中で、さっきの尚の言葉がずっと響いてる。



「だからさ、ミツちゃん。まじで別れた方がいいんじゃな〜い?」


「そうよ、別れてよ。こんなの尚じゃないもの。」



他人ごとみたいに聞こえる。

目の前にいる尚に対しても、なんだか客観的なものの見方をしてしまう。


実感、してないからかなぁ。


なにか言いたいのに、言えないや。


ただ、大好きな尚の姿がぼやけていて、はっきり見えない。


今、あなたはどんな顔をしてるの?


尚はあたしと別れたいの?



「無言ってことは、そゆことかよ。」



聞いたこともない尚の声。

冬だからかな。


いつもより、少し枯れた声。



「尚?!」


巻き髪の女の子が驚いたような声を出した。


でも、今のあたしにはよくわからなくって。

ただ涙を流してた。

ぽろぽろと溢れてくる涙は、あたしの頬を遠慮なく濡らしていく。



なんだこれ…。


まるで悲劇のヒロインみたいじゃん。


泣いてるだけで、なにもできない。


そんなの一番イヤなのに、今は唇は震えるだけで何も言えない。


目頭が熱くて、息を吸うことが辛い。


カッコ悪いあたし。

過呼吸になりながらも、どうしてもその場を立ち去ることはできなかった。


このまま、今ここを離れたらきっと終わっちゃうから。

ずっと好きだったんだから。

簡単に、別れられるわけないじゃんか。



「っ…やだよ。」


「……は」


「別れたく…っなんかない。昔がどうとか…っ関係ないじゃんか。」



近くまで歩み寄ると、なんだかホッとした。


少し驚いたけど、嬉しかった。



「っ…んだよ、それ。」


尚の瞳から綺麗な光が輝いていた。



なんだ。

泣いてんの、あたしだけじゃないじゃん。


同じ気持ちなんじゃん。


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