さらりと両端で結んでいた髪ゴムを取られた。


わけがわからず、あたしはあせあせと尚を見ることしかできない。



「…邪魔じゃね?」


「ちょ!ちょ!ちょ?!」


首もとのリボンを外される。

尚はというと、視線は少し下の方で、片手は自分のネクタイを外している。


そのしぐさだけで、あたしは頬を赤く染める。


と、同時に自分の胸元が涼しくなりハッとする。


い、いかん!いかん!


惑わされるな、あたし!

抵抗するのだ!


これは、自分の身の危険が迫っているということなんだぞ!



「や、やめっ」


「やなの?」


「へ…っ?」



頬を両手で包み込まれるように上を向かされる。

尚の瞳が切なげに揺れている。


「あ…」


儚げな尚の顔に、つい頬が赤くなり、ぽーっとなっている自分に気づかない。



頬やおでこ、まぶたに優しくキスをする尚に、まるで夢でも見ているかのような気分になる。


ずっと、こういうのを望んでいたんだ。


尚からの優しく甘いキスの雨。


降り止むと、お互いの視線が合い、自然とまぶたを閉じ、唇が重なる。




あ、あまーい…。


うっとり、うっとりと自分の世界に入っていた。


「う!ちょ…っ待って!」


だけど現実は違った。


あたしの首筋に顔を埋めている尚。


ただの野獣じゃねぇか!!



カブっ!!



半泣き、半ギレで噛みついた。


まさかの野犬はあたしか。


なんて、思いながらも。


「は…?」


「キス以上なんて、許さないんだからぁ!!」


うわーん!と子供のように泣くあたしに、尚が焦りの表情を浮かべながらもげんなりって感じ。


だけど、泣き止まないあたしを見て、ゆっくりとシャツのボタンをとめてくれる。


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