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「あんたんとこの尚くんどーしたのよ」


「う゛ー…」


香奈がポッキーを食べながら言う。



「珍しいじゃない。あんな彼。」


「珍しいってゆーか…っ尚じゃないみたいだよ」

頭打ってからおかしくなっちゃった

なんて言えるはずがない。


香奈の反応が、あたしにくらべて薄いっていうか。


あまり驚いていないことに、逆に疑問が浮かぶ。


「だって立花尚っつったらさー…」


香奈が、もう一本ポッキーを食べようと手を伸ばし、話していたところにちょうどある声がそれをかき消した。



「お!はっけーん!」


「えっ」



廊下からはっちゃけた声がしたと思ったら、休み時間のチャラ男だった。


「みっちゃん!はろー!」


ずかずかと当たり前のように人のクラスに入ってきて、あたしのところまで来た。



「みっちゃんって誰?」


怪訝な顔で、あたしは見上げた。


「蜜ちゃんは、キミしかいないじゃーん!」


「…は?」


勝手にあだ名を付けられ、肩をバシバシ叩かれる。


「なに?この人」


コソっと香奈が耳打ちする。

さすがの関西出身の娘も引き気味だ。



このテンション、まじついていけない。



「俺!斎藤裕史(ゆうじ)っていいまーす!」


耳打ち、聞こえてたみたいだ。



「さ、斎藤裕史?!」


ガタンと香奈が立ち上がった。


その拍子に、机の上にあったポッキーが落ちた。

「あああんたっ」



床に落ちたポッキーは、香奈の足によって折れた。


真っ青な顔して、一体なに?!

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