彼氏キケン地帯




「え?」


いきなりのあたしの発言に、黒目がちな大きな目が見開く。


それもそのはず。


いまは教室でお弁当を食べている最中だから。


自分でも少しびっくりしているけど、昔から唐突な言動をしてしまうという自覚はある。


女子にだって性欲はあるのよ。


階段から落ちて以来、肉食系になってしまった尚にはたじろいでばかりで、いつも受け身だったけど、それまではあたしがいつも行動してたと思う。


一緒に登下校し始めたのだって、一緒にお弁当食べるのだって、あたしが言い出してからだし。



急に草食系に戻った尚の行動に物足りなく感じるのだって、全然おかしくない。



でも、尚はもとから人までイチャイチャするのが苦手みたいで、不良化したあとも人前では何もしてこなかった。



だから、してくるなんて思わなかった。


無茶なことを言ったなって思ったのに、尚は小鳥みたいなキスをした。



唇を離すと、一瞬頬を赤くして顔を伏せてから、いつものようににこっと笑った。


あの一瞬の表情は、たぶん素だったと思う。



素で恥ずかしがり屋だと判明して、なぜだかまた急に猫をかぶりだした尚をからかいたくなった。


今までの仕返しよ。


今度はあたしが尚を振り回してやる。



「なに?いまの。」


「は…?えっ」


怪訝そうに顔をしかめる尚。


なにがあったかしらないけど、何も言わずに"尚くん"を演じ続ける尚にもう耐えられない。


意地悪してやる。


「もう一回。」


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