さっきガラスを割った手が、破片で切れたのか血だらけで、それでも尚は痛いと顔を歪めることなく斎藤を睨む。



そんな尚が怖かった。


だけど、その血だらけの左手を見て、なにも考えず飛び出した。



再び斎藤の胸ぐらを掴もうとする尚の前に。



「…蜜希。」



ハッと我に返ったように、目の色が少しだけ温かくなったように感じられる尚の表情。



「あたしのために怒ってくれるのは嬉しいけど…そんなに自分を傷付けないで。」



怖かったという感情よりも、尚が自らボロボロになっていく姿を見たくなかったと思った。


きっと、尚からしたらぶつけられない感情をガラスにぶつけ、痛みで理性を保っていたのかもしれない。


だけど、そんなのあたしが嫌なんだ。


いつも、いつもあたしのために動いてくれる尚。

嬉しいけど、そんなの素直に喜ぶことなんてできないよ。





「自分で、ちゃんと、言える…」


「…」


「だから、尚は…っ無理しないで…?」


「……うん。」




尚は喧嘩に慣れているわけじゃない。


少なくとも、ついこの前までは無喧嘩の優等生だったんだから。


そんな尚に、無理させたくないんだ。



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