尚に上手く交わされた女こと美沙さん。


無邪気な笑顔でとんでもなく図々しいことを言っている。



「わりぃけど、昼は蜜希との時間だからさ。」



猫かぶり女に、そう真っ直ぐ言い放つ尚。


そんな姿に、ますますあたしは夢中になる。


中途半端な優しさを持つ人ならたくさんいるけど、尚みたいな人なんて早々いない。


あたしのことを第一に考えてくれてる、そう思うと胸の奥に心地良い甘い電流が流れた。



「あたし、最近彼氏と別れちゃって…お邪魔なのはわかってるけど、だけど…寂しいんだもん。」


そう言って、尚の腕にしがみつき泣き真似を始める。



「美沙…?」



心配そうな視線を彼女に向ける尚。


優しく頭を撫でているその姿に、今度はどろっとしたような固まりがあたしの心の中になだれ込んできた。



「はぁ…元気だせっつの。」


「っありがと…っ尚…」


そして、図に乗る彼女はギュッと尚に抱きついた。


その瞬間、拳に力を込めたけど、尚の優しい横顔に、一瞬にしてその力は緩んだ。



誰か、このドロドロとした汚い感情をどうにかして。


蜷局を巻くように、まるで螺旋のように。


あたしの中で、真っ黒な感情が騒ぎ立てていた。



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