ニコッとして、あたしにトイレの場所を案内してくれる美沙さん。
本当は「別に大丈夫です」って言うはずだったのに、彼女の行動はすばやく、言うタイミングを逃した。
少し奥の方へ行くと、スパゲティのよい匂いがしてきた。
そろそろできるのかな?と思うと、少しだけ気分が晴れた。
そして、トイレはもう目の前で、ここからは案内してもらえなくても大丈夫。
「あの、ここまででいいで…」
「あのさぁ。」
……え。
低い声。
美沙さんの唇が動くタイミングとまったく同じ。
というか、おそらく彼女が今の声を出した!
なんか、さっきと違くね?!
「アンタら、何ヶ月?」
「え…?」
「何ヶ月付き合ったって聞いてんの。」
「よ、四カ月くらい…。」
「した?」
「…はい?」
「エッチ。何回したのよ。」
初対面の彼女から、いきなり大人な単語が出てきた。
しかも“何回?”って…した前提の話になってる。
「……してないです。」
「は?」
「まだ、なんです。」
「ブ!!!どんまーい!」
いきなり笑い出す彼女。
なんだか、ついこの前と同じ呼び出しされたときの気分になる。
でも、今回は違う。
彼女の方が、あたしより少しだけ大きい。
言葉も態度も状態も、上から目線だ…!
「尚はね、本能で生きる男だよ?“まだ”って、性欲の強いアイツが待てるわけないでしょ。あんた、そのうち捨てられるんじゃない?」
「ちょっと!勝手なこと言わないでよ!」
捨てられるだと?!
頭にきた!
つい、拳を握りしめる。
「さっきから好き放題言っちゃって、彼女はあたしなんですけど!」
「なっまいき。
彼女だから?ハ!
尚は、彼女を特別な存在だとは思ってないよ?
なんでも話してくれるのはあたしにだけ。あたしは、尚の特別な存在なの。」
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