誰にも、

何も言わずに居なくなった冬月さん。


オレにだけ、

最後の『言葉』をくれた冬月さん。



「兄貴は、ズルイよ。」



墓に手向けた線香の煙が、

日曜の昼下がりの午後の光に揺らめいていた。


昔から、そうだった。


兄貴は、

オレが欲しいものを、全部持っていた。


だから、

若くして逝った時、

少しだけ、

ほんの少しだけ、

心の中で呟いた。



『ざまぁみろ』



それなのに、

結局、

兄貴には最後まで勝てなかった。


いや、

勝つとか負けるとかじゃないな。


これじゃぁ、

いつまでたっても子供のままだな。

自嘲的な笑いがこみ上げてくる。


それでも、

オレは、

もう変化を恐れたりはしない。


変わらない日常なんて無いって判ったから。

彼女が教えてくれたから。