恋人[短編]



だんだん遠藤君の顔が近付いてくる。


顔をそらす。

遠藤君の唇が頬にあたった。


「あー、もう。動かないでよ」


にやにやと笑う彼は、とても不気味だった。




「来ないでっ!」


そう叫んだとき───…


遠藤君は、床に倒れていた。


状況が理解できなかった。



分かるのは、遠藤君が頬をおさえて倒れているのと、宮嶋が私の前にいるってこと。それもすごい形相で。


「てめえ、何してんだよ、ド変態野郎!」


肩で息をしながら、いつもの宮嶋からは想像もできないような声で怒鳴っている。


……助けに来て、くれたんだ。


「んだよっ」


遠藤君が起き上がる。宮嶋は、もう一度彼を殴った。


「金輪際、永遠に近づくな。また変なことしたら、このくらいじゃすまねえからな」



迫力に押されたのか、ちっと舌打ちをして理科室を出ていった。



「…………宮嶋」


「大丈夫か、永遠?」


さっきの顔とは全く違う、とても優しい顔で私に笑いかける。


「遅いよ」


こんなときでさえ、素直にお礼が言えないなんて。


「悪かったな」


少しふてくされたように言う宮嶋。なんとなく、かわいかった。


そして、あんな一面があるっていう意外な事実を知れたこと、すごくうれしい。


「…………ありがとう」



面と向かって言うのも気恥かしい。だから、顔をそらして、ぼそっとお礼を言った。


でも宮嶋には聞こえていたみたい。


ふわりと、私の好きなあの笑顔で笑ってくれた。