恋人[短編]



───理科室には、誰もいなかった。


「話って?」


だいたい予想はしてるけど、一応聞いてみる。


「僕、E組の遠藤。予想してるかもしれないけど、盛山さんが好きです。付き合ってくれる?」


やっぱり、告白だった。


嬉しくないわけはないんだけど。私を好いてくれているっていうことは嬉しいんだけど、好きじゃない人に告白されてもなあ。


「好きだ」って言葉は、宮嶋に言ってほしい。


「ごめんね。好きな人がいるから」


私の答えは決まっている。

浮気なんか絶対にしない。一途なんだから。


って、付き合ってもいないのに浮気も何もないのだけど。



「知ってるよ。宮嶋でしょ? あいつのどこがいいの、永遠。俺のほうがカッコいいし、勉強もできるよ。俺と付き合ったら、美男美女カップルだぜ」


なぜか、口調が変わっている。僕から俺になっているし、何より勝手に呼び捨てにされているのが気に食わない。


そして、なぜ私の好きな人を知っているんだろう。


「なんで、知って……?」

「有名。分かりやすいし」

「そうなんだ」


有名ってことは、ほかの人も知ってるのかな? と、返事をしながら考えた。だとしたら恥ずかしすぎる。


「永遠。付き合ってよ」

「好きな人がいるの!」

「そんなの、関係ないね」


遠藤君(だっけ)は、にやりと笑うと、私の手首をつかんだ。


抵抗するほど、その力は強くなる。