《短編》くすんだ鍵

何だかもう、どうしてミツを振ってこんな男を選んだんだかわかんなくなってきて、とりあえず怒りが込み上げてきた。


だから憤慨し、唇を噛み締めた時、



「心配しなくても、お前の顔に傷が残ったら、俺が責任取ってやっからさ。」


軽すぎる言葉が放たれた。


一瞬その意味がわからず制止してしまったあたしをよそに、優心は、鼻歌なんかを混じらせる。


能天気っぽくて嫌になるけれど。



「そっかぁ、お前あれからも俺のこと考え続けてたんだぁ?」


へぇ、ふうん、なんて言って楽しそうに口角を上げる彼を前に、



「やっぱアンタなんて嫌い。」


ふんっ、と鼻を鳴らした。


が、こんなんであたしが勝てた試しなんてなく、



「じゃあさっきの告白は?」


「あんなもん寝言よ、寝言!」


「ならナシになっちゃうけど、良いのかなぁ?」


まるでわかっていると言わんばかりの瞳が憎い。


そうだ、今更だけど、優心という男はこういうヤツだった。



「もう、ホントに嫌!」


涙目のままに殴り掛かろうとした瞬間、ふっと笑った彼はあたしの手を掴んで引いた。



「やっぱお前、最高に面白ぇよ。
さすがはロマンスのナンバーワンを惚れさせただけあるっつーか。」


笑いながら言わないでほしいものだ。


あたしは脱力するように肩を落とした。