「アンナ?」


それは空が白み始めた明け方のこと、意識半分でうずくまっていたあたしの頭の上から聞こえた声。


顔を上げるとそこには、怪訝そうな様子でこちらを見る彼の姿。



「…優、心…」


声が震えた。



「お前、何やってんだよ!」


体を揺すられると、意味もなく涙が込み上げてくる。


だから顔を俯かせたのに、



「何時間ここにいたんだよ!
寒がりのくせに、凍死してぇのかよ!」


「けど、会いたくて。」


そう言った時、彼はひどく困惑するような顔で目を丸くした。



「どうしても話したいことがあったの。」


彼は視線を外す。


そして小さく吐き捨てられた舌打ちの後で、



「あの男は?」


「あたしもうミツとのルームシェアはやめて、実家に戻ったの。
遠回りして、やっと自分の気持ちがわかったから。」


「………」


「本当に大切にしなきゃいけなかったのは優心だったんだ、って、気付いたんだ。」


優心は片手で顔を覆うように隠してしまう。


吐き出された吐息は薄暗い空に滲んだ。



「ごめんね、それ伝えたかっただけだから。」