たとえばそれが始まりだったとして



◇◆◇


無我夢中で階段を駆け上った。そして目的の場所に着いた時、俺は眼前に広がる光景に目を見張った。

「桐原君!?」

屋上のドアに寄りかかるようにして座り込んでいた彼女が、俺の姿を捉えた瞬間驚きに声を上げる。だけど今は彼女の言葉に答える余裕はない。

――何故、彼女はこんな所に座り込んでいる?

嫌な予感が胸を過ぎった。
俺の存在に気付いていないはずはないのに、眞鍋は振り返りさえしない。その俺を歯牙にもかけないような態度にどうしようもなく腹が立った。
力任せに眞鍋の肩を掴んで無理矢理こちらを向かせると、今度はワイシャツの襟を掴んで息がかかる程の距離まで引き寄せ、その目に俺を映させる。

「彼女に何かしたのか?」

ひどく冷たい声だった。自分でもこんな声が出せるんだなと、頭の片隅で思った。

それに対し眞鍋は、今まで何の反応も示さなかったにも拘わらず、さも愉快と言わんばかりににぃと口元を吊り上げて挑発するように言った。

「だったら?」

瞬間、かあっと頭に血がのぼる。
掴んだ襟元を乱暴に離すと勢い良く腕を振り上げる。眞鍋はされるがままに、ただ口元だけは変わらず笑っていた。それが余計に熱を上げる。もう眞鍋しか目に入っていなかった。
上げた拳をそのまま振り下ろす。

「桐原君!」

強張った声で彼女が叫ぶ。
聞き親しんだ彼女の声に我を取り戻しかけるも今さら勢いのついた拳を止める事なんか出来ない。

はずだった。

「っ!?」

眞鍋の顔面を打ち付けるはずだった拳が、その寸前でピタリと止まった。止まざるを得なかった。

「ぼ、暴力はいかんと思います……」

彼女の声が背中からダイレクトに伝わってきて、空中で停止したままだった拳から力が抜ける。ゆっくりと腕を下ろす。眞鍋の襟を掴んでいた手もすっかり力をなくしていて仕方なく解いた。そして先ほどから腰に両腕を回ししがみついてる彼女にやんわりと腕を放すよう申し出た。