彼女は今、眞鍋といる。
不安の正体はそれだったのか? いや、それだけじゃない。彼女を呼び出したという事は、眞鍋は彼女に想いを伝えるつもりだ。そうしたら彼女は何と返事をするのだろうか。もし、眞鍋の想いを受け入れたら――? そう考えたら居ても立ってもいられなくなって、気が付けば俺は屋上へ向かい走り出していた。
他人の告白を邪魔するなとか、行ってどうするとか、彼女がOKしていたら自分は邪魔なだけじゃないのかとか、思わなかったわけじゃない。走っている最中、残っている理性が現れて足が止まりそうになった。どこか冷静な自分が幾度も、お前は何をしているのだと訊いてきた。でも、どうしても今彼女に会わなければいけない気がした。
◇◆◇
「はぁっ」
どれくらいそうしていたのか、多分そんなに長い時間ではない。重なった唇が静かに離される。息が苦しい。酸素を求めて口を開く。肩で息をし乱れた呼吸を正す。離れてもまだ唇が触れているような気がして、感触が拭えない。
「なに……」
吐き出した言葉に返事が返ってくることはなかった。その代わりというように、そっと手首から手が外された。拘束が解かれると、支えるものが無くなった私の身体は、そのまま壁に背を預けるようにずるずると床へへたり込んだ。雨の気配を背中に感じながら、ひんやりと冷えた空気の中で、唇だけが異常なくらい熱を帯びていた。
「まなべ、くん」
唇が震えて上手く声が出せない。
「なんで……?」
不快感とか嫌悪感を感じるよりもまず頭を過ったのは、“なんで”という疑問で。感情をぶつけるように押しつけられた唇に、何故だか胸が苦しくなった。縋るようにその人を見上げる。
眞鍋君は何も答えない。
ただ漠然と私の方を向いていて、ぼんやりと私を見つめていた。眞鍋君が何を考えているのかさっぱりわからなかった。

